時間非整合性と参考書の行く末

本の虫の中の人がC++の参考書を自由なライセンスで公開したので、ちょっとメモ。中の人は参考書はすべからく自由ライセンスで公開されるべきと考えているが、これは経済的に考えて面白い問題だ。

例えとして、医療分野で新薬を開発することを考えてみる。薬というのは、突き詰めて考えれば、特定の化学物質の配合組み合わせだ。もし新しい薬を開発したとして、つまり新しい化学物質の配合を発見した場合、その知識は制限なしで他人と共有することが最も合理的だ。そうすれば、特許料なしで薬を売買でき、また最も安価な製造方法を採用した製品が広く普及する(市場原理がはたらく)。消費者は最大限の恩恵に浴することができる。

しかし、事前に「新薬についての知識は他人と共有される」とわかっていれば、製薬会社は(大きなコストを割いて)新薬を開発するだろうか。

このような事前と事後の合理性のくいちがいは時間非整合性とよばれる。これはマクロ経済から将棋の新手まで、幅広く応用可能で、経済学から学べる最も重要な事項の一つだ。