動的平衡
- 作者: 福岡伸一
- 出版社/メーカー: 木楽舎
- 発売日: 2009/02/17
- メディア: 単行本
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本書では、生物を静的な状態ではなく「流れのなかの淀み(動的平衡)」として捉えて、様々な解釈をしていく。一般向けに書いてあり、素人にも分かりやすい。
本書の主張で最も興味を惹かれたのは「自然界には線形の変化よりも非線形の変化の方が、圧倒的に多い」ということだ。
例えば、原始人にとって「ある原因を2倍にすれば、結果が2倍になる」というようなことは少なかったはずだ。武器を2倍作れば獲物が2倍捕れるわけではない。2倍の食物を摂れば2倍活動できるわけではない。
しかし、人間の脳は線形な変化のほうを、より直感的に理解することができる。
我々は「ガソリンの量を2倍にすれば、車は2倍の距離をはしる」とか「2倍のスピードをだせば、半分の時間で目的地に到着する」ということを、直感的に素直に理解できる。
自然界には非線形変化の方が多いのに、人間の脳は線形変化の方をよりよく認識するのは何故か。本書は、その原因は進化の過程にあるとする。
その進化の過程で、私たちの脳にはランダムなものの中に、できるだけ法則やパターンを見出そうとする作用が加わってきた。私たちの脳にそういう水路がつけられてしまったのである。暗闇に潜む敵を発見する上で、あるいは生きるか死ぬかの瀬戸際では、そのような瞬時のパターン化が役に立つことも多かったに違いない。
しかし、一方で、ランダムなものの中からパターンを見出す作用は、今、見てきたように、実はそのはとんどが空目なのである。
現代社会に生きている私たちにとって、脳が直感的にみているものというのは、ないところにあるものを見、ランダムなものの中に強引に関係性を見ている、そういう場面があるのだ。むしろそのような場面のほうが多いかもしれない。
ところが、私たちは自分の脳の癖に気がつかないのである。
生命というのは、ハードコーディングされた、移植性の低い、スパゲティコードのようなものなのだ。